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アイドルのヒ・ミ・ツ 11

その日はどんよりと重く灰色の雲が垂れ込めていた。天気予報によると間もなく嵐が来るということだった。
(ちぇっ、新アイドルが誕生する記念すべき日だというのに)
ボクは福服さんに教えてもらったダイヤルナンバーを回し社長室の金庫を開け一千万円を取り出し無造作にアタッシェケースに収める。思い直し一応見栄えが良いようにきれいにそろえ直す。まだ金庫の中には何千万円かが残っているがこれからプロジェクトを進行していくのに必要なものだ。
社長室から出ると受付のソファーに長閑モラがどこか自信なさげに座っている。
「さあ!行こうか」
ボクは努めて明るく話しかける。
「ちょっと遠出してくるよ」
秘書の安桃さんは、
「いってらっしゃいませ」
気持ち良く送り出してくれた。
福服さんは社長として他社で交渉中、後祭は年に一度の人間ドッグということだ。その方がボクにとって好都合であった。
(ボク一人でアイドルを作り出して見せる。あの金融業者の金暮という男が言っていたな。『あなたのお父様は‘男‘でしたよ』って。よし!上等じゃないかボクも男になってやろうじゃないか!)
会社を出るとそこにはすでに運転手付きのベンツが待機している。犬のロンが寂しげに見送っている。ボクは長閑モラと後部座席に乗り込んだ。
「『細胞未来研究所』へやってくれ」
「かしこまりました」
ベンツは滑る様に走り出し、同時に激しく雨が降り出した。
(いまいましい雨だな。約束の時間に間に合えばよいが・・・)

細胞未来研究所は山中にあるためベンツは曲がりくねった坂道を進んでいく。雨は嵐と化しますます激しくなる。横殴りの雨がベンツのフロントガラスに叩きつけ前方の景色は霞んでいる。ワイパーは勢いよく水を掻き分けるものの余りの激しい水量で追いつかない。自然ベンツの速度も遅くなる。
ボクはイライラするものの変に運転手を煽り立てて事故にでもなったら大変なので耐え忍ぶ。時折雷鳴が轟き隣のモラは耳を塞いで頭を伏せブルブル震えている。
(全く・・・女の子っていうのは臆病な動物だな・・・)
「大丈夫だよ」
ボクは励ますようにモラの背中を優しく撫でる。
そのとき
「社長」
と運転手が注意を促してくる。見るとフロントガラスの先に行く先を通せんぼするように黄色いコートを羽織った男が雨風の中立ち塞がって手に持ったライトを振っている。車を止め運転手が窓を少し開ける。雨風が吹き込んでくる。作業員の男が顔を近づけ叫ぶように言う。
「すいません!この先で土砂崩れが発生したんですよ。この先は通行止めです。引き返してください」
ベンツは狭い道を器用にUターンする。
「なんとか脇道を探してくれ。どうしても行かなければならないんだ」
「はい」
遅れそうな件を携帯で電話するが繋がらなかった。忠実な運転手は特注カーナビで脇道を探し出し狭く入り組んだ薄暗い山道をゆっくりと掻き分けるように進んで行った。

細胞未来研究所に着いた時にはすでに辺りは暗くなっていた。約束の時間より大幅に遅れてしまっていた。雨は激しく地面を叩きつけ雷が轟き研究所の蔦の絡まった古めかしい西洋風の舘を稲光が照らし出した。運転手が傘を差し車から出る。風が傘を吹き飛ばしそうになるのを運転手は必死にこらえている。傘はほとんど役に立たずに運転手はびしょ濡れになってしまった。彼はインターフォンで到着を告げると重々しい門が自動で軋みながら開いていった。
(古い屋敷の割にハイテク装置なんだな・・・)
ボクは妙に感心する。ベンツは屋敷の玄関に横付けされる。ボクとモラ二人は降りベンツを社に返す。事が終わったとき福服さんが迎えに来る手はずになっているのである。
ボクは玄関扉の重いノブをノックする。
と同時に扉が開き、
「なんじゃ!遅いではないか!何時間待たせるんじゃ!」
現れたのは白衣をまとったネットの夢現ナルタ博士の顔写真と同じ白髪の気難しい老人であった。
「申し訳ありません。初めまして。先日電話しましたロイヤルエンジェルプロダクション社長一心スバルです」
一瞬老人はたじろぐ。
「えらく思ったより若い社長さんじゃな」
「早めに社を出たのですが途中崖崩れに遭遇しまして回り道をしたため遅れてしまいました。重ね重ね申し訳ございませんでした」
ボクは深く礼をして遅れてしまったことを詫びた。
「フン、まあ外で話するのはなんだ・・・まあ入りたまえ」
ボクとモラは薄暗く広い玄関ホールを横切って応接室に通される。応接室は打って変わってシャンデリアの光に照らされた豪華な部屋であった。明るさに目が慣れるまで暫したたずむ。壁には油絵、棚にトラの剥製や舶来の花瓶が飾られてある。ボクらは勧められるままにソファーに落ち着く。博士が呼び鈴を鳴らすとボクたちが入ってきたのではない別の扉から一人の白衣を着た女性が盆を持って現れた。
「紹介しようワシの助手の美玉メルム君だ。女性ながら優秀なワシの右腕じゃ」
美玉助手は紅茶を目の前に差し出しながら軽く会釈をする。年は三十歳前後の肩に掛からない黒髪の美しい人でいかにも『大人の女』っていった感じで科学者にしておくのがもったいないような感じで女優さんになった方がよいのではと思えるような美女であった。
「ああ、君もここにいてくれ」
「はい」
美玉助手は博士の横のソファーに腰掛ける。
「で・・・例のものは持ってきてくれたのかな?」
「もちろんです」
とボクは、アタッシェケースを机の上で開けて博士の前に一千万円の札束を見せる。そのとき博士の目が一瞬輝いたのをボクは見逃さなかった。
「あいにくじゃがワシは今から出かけねばならないのじゃ。ヨーロッパでワシの研究に対して表彰してくれるというんでな。晴れの舞台に出なければならん。細胞原子分解再構成装置ゼウスの件じゃが。ワシが旅行から帰ってからにしてしてくれんか。あんたが遅れてきたんで処置の時間が無くなってしまったのでな」
「それは困ります。そうなるとわが社のプロジェクトが停滞してしまいます。今すぐこの子を細胞原子分解再構成装置に掛けてもらわないと」
「う・・・ううむ・・・」
博士は困り切ってしまい暫くの間沈黙が続く。
ボクは意を決して、
「仕方ありませんな。こうなってしまいましては細胞学の権威獅子ヶ谷博士にお願いするしかないようです・・・・わが社のアイドルプロジェクト会議で私は反対を押し切って
あなた夢現ナルタ博士を推薦したのですが・・・今この長閑モラの姿形を変えていただけないとなりますと部下の意見を取り入れてこの子を獅子ヶ谷博士に委ねなければなりません」
もちろん会議の話と言うのは嘘でデッチアゲである。
博士の顔色がボクの言葉を聞いて瞬く間に紅潮していく。
「なんじゃと!!あの獅子ヶ谷めに任せるじゃと!奴の細胞学理論はまがい物じゃ!あんなでくの坊に何ができるというんじゃ!」
夢現ナルタ博士は獅子ヶ谷博士と学会で犬猿の仲で、獅子ヶ谷博士の陰謀で夢現博士は追放同然で学会を追い出されてしまったのだ。そのためナルタ博士が獅子ヶ谷博士をことのほか憎んでいることをボクはネットで調べ上げていたのである。
「けしからん!ううむ・・・・美玉博士!今から『ゼウス』を作動させるぞ!一心社長!付いてこい!」
ボクは心の中でほくそ笑む。福服さんの交渉術第12条『交渉相手の事を徹底的に調べつくせ』という教えが役に立った。
博士が先頭になり美玉助手、ボク、長閑モラが付いていく。研究所は舘と別棟にあるらしく研究所につながる長い通路を博士は進んでいく。
隣を歩いている美玉助手がナルタ博士に聞こえないように、
「あなたってなかなかのワルね・・・」
とボクに言う。彼女はボクがナルタ博士にカマをかけたことを見破っていた。ボクは
「フフン」
と笑う。ボクはプロジエクトをやり遂げるためなら手段を選ばないつもりであった。

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