スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

アイドルのヒ・ミ・ツ 5

「形から入らなければなりません。若社長」
これが福服さんの弁だった。
若社長というのはもちろんボクのことだ。
福服さんに連れて行かれたのは紳士服屋であった。紳士服屋と言っても作り置きの紳士服を置いているのではない。そこで扱っているのは注文紳士服ってヤツだ。つまりボクだけの世界で一つだけの自前の背広を仕立てるってわけだ。テーラーがうやうやしくボクな体のサイズを隈なく測る。使うモノは輸入の極上の高級布地。福服さんは金色のクレジットカードを出して支払いを済ませる。しかし注文紳士服ってヤツは来店したその日に持ち帰れないのが難点だな

帰りのベンツの後部座席で福服さんは黒光りする漆塗りの携帯電話を取り出す。
「若社長、これがあなたの携帯電話です。これで社員たちと連絡を取って下さい」
「そ、そうか・・・・」
平静を装って受け取る。そこにはめ込まれている『ロイヤルエンジェルプロダクション』のマークは本物の金の板。思ったよりもズッシリと重い。自ずと手が緊張で震える。
(ボクはこれを持つのに相応しい人間なんだ)
と自分に言い聞かせる。

その夜、ボクはレンタルのイブニングを着てパーティーに出掛ける。芸能界はやれ何周年だの、賞を取った祝いだの、生前葬だのとパーティーが多いみたいである。今日のパーティーでボクが会社を引き継いだことをお披露目すると言う。
パーティー会場はすでに着飾った人々で溢れていた。内輪のパーティーと聞いてはいたがなかなか盛大である。
ボクは舞台の上に立ち、福服さんに紹介される。
「今は亡き前社長の忘れ形見。一心スバル様です。これからのわが社を栄光へと導いてくださるでしょう。皆様の力添えお願いいたします」
一斉に拍手が巻き起こる。
皆がそれぞれが席から立ち上がり各々談笑に耽る。なんとなく立っているとどこそこの会長や社長がボクのもとへやってくる。みんな見るからにボクより遥かに年上だ。
「君のお父さんは人格者だったよ」
「いや~君の父上はやり手だったねぇ」
「あんな人物は二度とは出まい」
来る人来る人がボクの父を誉めそやす。『ボクを誉めてくれ』と言いたくともボクにはなんの実績もない。ボクはすっかりくさってしまった。
ウェイターがせわしなく料理や酒を運んでいる。ヤケになってボクは未成年なのだがウェイターの盆からシャンパンを失敬して一気に煽った。初めて飲んだシャンパンはボクを幸せな気分にいざなった。つい次のシャンパンにも手が伸びる。

「あら、どこかでお会いしませんでした?」
「え?」
シャンパンの魔力に取り込まれてしまいほろ酔い気分の中眼前に現れたのはうら若き綺麗な女性であった。
「レナです」
「え・・・ええと・・・よろしく」
ボクはレナという女性と楽しい会話を楽しむことになる。

パ-ティーには売れない女優の卵やアイドル志望の乙女がなんとか自分を売り込もうと潜り込んでいる。そんな女性が若社長のボクに取り入ろうと近寄ってきたのだ。しかしその時ボクはアルコールのせいでそこまで考えが及ばなかった。

「まあっ!一心さんって面白いお方」
いつの間にかもう片方にも美女がボクに熱い視線を注いでいる。
「ミコです」
(ボクってひょっとしてモテ男?)
「スバルさんってハンサムなのね」
ボクは手櫛で髪をすいて慣れないポーズを決める。顔を凛々しく引き締めようとするがニヤけてしまうのとシャンパン酔いでどうにも締まらない。
「会社のトップともなるとお忙しいでしょう?」
「まあね、先週は英国で演劇鑑賞、次は仏国へ飛んで美術館で絵画鑑賞。人生日々勉強だな」
「まあ!素敵」
嘘がポンポン出てきた。
いつの間にかボクは周りを美女たちに取り囲まれていた。両手に花どころか両手いっぱいに花束である。
本来なら福服さんがガードするはずなのであったが、表向きは福服さんが社長なのでその挨拶に追われボクに害虫がつかないよう監視することがお留守になってしまったのであった。

(合コンでこんなにもてたことはなかった。彼女たちは見る目がない。所詮庶民の女だったのだ。さすが上流社会の女は違う。ボクからにじみ出てくる教養や品格を見抜いて親交を持とうとする。ボクは生まれながらに上流社会に相応しい男だったのだ)
そのときボクは大いなる勘違いをしていた。

女性たちはこれ見よがしに胸の谷間を見せてくる。ボクはシャンペンを飲むふりをしながらグラスごしに愛でる。
パーティー会場の所々には客を楽しませるためにパフォーマー達が配置されている。或る者は沢山の玉を空中で操り、或る者は目隠しをして切れ味の鋭いナイフを空中に投げては受け止めている。玉乗りをしている者もいる。
ボクのそばにいるパフォーマーは突然口から火を噴いた。
「キャッ怖いっ!」
歌手志望のレナはボクに抱きついてきて。胸の膨らみをグイグイと押し付けてきた。
隣の女優の卵ミコも負けじと自らウェイターにぶつかって、
「あっ!胸にワインこぼしちゃった。あ~ん、困っちゃうぅ。スバルさん、拭いて下さらない」
ボクは「はいはい」とハンカチを出しイブニングドレスの胸元を嬉々として拭く。プヨプヨした弾力の手触りをしばし楽しむ。
(おお・・・これがこれが酒池肉林というものか)
ボクはその夜パラダイスというものを知った。

翌朝ボクは元気に目覚めた。昨日のシャンペンが残ってはいたが若さがそれを吹っ飛ばした。
ボクはまだ住む場所を定めていなかった。父の住んでいたマンションを勧められたが父の轍を踏む生き方をしたくなかったので、我がままを言って会社の近くのホテルで寝泊まりすることにしてそこから会社に通っていた。
残念ながら昨日はお持ち帰りできなかった。もしたくさんの女性たちから一人だけ選んじゃうとあとに残った女性たちが可哀そうだからね。あとでじっくり一人ひとり堪能するつもりさ。
さて今夜は昨日のパーティーと出合ったどの女性とランデブーしようかな。
レナちゃんがいいかな。ミコちゃんがいいかな。よりどりみどりだ。ちゃんと携帯電話の番号も交換したからね。
ボクの今夜の夢は広がる。

ボクは肩で風を切って歩く。
「あ。若社長。おはようございます」
入り口の受付嬢が立って挨拶をしてくる。
ボクより年上の社員が
「若社長、あるアイデアがあるのですがお時間を取っていただけませんでしょうか?」
と寄ってくる。
社員みんながボクのことを親しみを込めて若社長と呼ぶ。

社長室に入るとすでに福服さんが待機して直膣不動で待っていた。
「やあ、お早う。爽やかな朝だね!福服さん」
「お早うございます。実はお話があるのですが」
挨拶そこそこに福服さんは苦言を呈し始めた。
「若社長、昨日のパーティーのようなお戯れは困ります」
ボクは即座に応酬する。
「福服さん。若社長のボクを見くびっちゃあ困るな」
「と申しますと?」
「ボクは女性たちと遊んでいると見せかけて。実はあのパーティーの席で未来のアイドルとなる女性のオーディションしていたのさ!」
「えらくニヤけながらのオーディションでしたね」
本当のことを言われボクはムッとする。
「聞き捨てならないな!ボクは純粋な気持ちで彼女たちと接していたんだ!嘘を言っていない証拠にボクのこの澄んだ目を見てくれ!」
福服が若社長の目を見ると、その目は二日酔いでドンヨリ濁って目ヤニが付いていた。
福服さんは頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。てっきりわたしは若社長がガールハントしているものとばかり思っておりました」
「はっはっはっ。わかってくれたらいいよ。誰にでも思い違いはあるものさ。許す。許す」
「で・・・・未来のアイドルは見つかりましたでしょうか?」
「ダメだね。話にならない」
「するとあのパーティーの女性たちとはもう今後関係を持つ必要はないということですね」
「う・・・うん・・・まあそういうことかな・・・」
ボクはしどろもどろになる。
「昨夜若社長にお渡しした携帯電話には特殊機能が付いておりまして・・・・」
「?」
「あなたの携帯電話をこちらから操作することができます」
福服はポケットからリモコンを取り出すとスイッチを入れた
「これで若社長の携帯から昨日のパーティーの女性たちの電話番号を全て消去しました。むこうから若社長に昨日の女性が電話してきたとしても全て拒否するようにセットしました」
「そんな~あんまりだぁ!!!!ひどいよ~福服さん!」
嘆きのあまりボクは社長の机に突っ伏した。
福服さんは静かに言う。
「わたしには若社長を成人までに一人前にする義務があります。ご理解願います」
福服という男は極悪非道な男であった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

happychange

Author:happychange
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FCカウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。