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アイドルのヒ・ミ・ツ 6

会社の会議室の部屋でボクは一人落ち着かなかった。鏡を見て自分の身なりを確認する。スーツは出来立てなのにも関わらず付いてもいない埃をはたく、髪を整える。そんな時ノックの音が響く。
ボクは
「どうぞ」
と客を迎え入れる。入ってきたのは皆ボクより年上の三人の男たちだ。
ボクは一人でこの男たちと交渉するのだ。
次回自社のタレントのコンサートを開くにあたっての会場を借りる契約を行うのである。
早速相手のトップの男が提示額を示す書類を出してくる。ボクはもっともらしく
「ほーこの値段ですか」
と金額を口にする。するとボクの耳にはめ込まれたワイヤレスの小型イヤホンから
『若社長、その値段は高すぎます。もっと下げることができます。この値段を提示してください』
と福服さんから指令が聞こえてくる。
(この連中ボクが若いと思ってふっかけてきてるんだな)
実はさっきボクが身だしなみを整えていた鏡はマジックミラーになっていて隣の部屋から福服さんがボクたちの交渉を見守っているのだ。
ボクは福服さんの提示した金額を相手に言う。
「この金額でできるはずです。これでお願いします」
その金額を見た三人の男たちはしばし顔を突き合わせてヒソヒソと相談している。
「いや~まいりましたな。お父さんと違わずなかなか手厳しいですな」
ボクの提示した金額で交渉は成立しボクは三人の男たちそれぞれと握手を交わした。

「お見事でした。若社長」
福服の誉め言葉を聞いてもボクは面白くなかった。
「『見事だ』って言われてもボクは福服さんの言われるままのことをしただけだよ。この手柄は福服さんのものだよ」
ボクは社長室の机に肩肘をついてそっけなく言う。
「いえこうして実践で何事も交渉されて実力をつけていけばよいのです」
その時ノックして秘書の安桃さんが顔を出す。
「若社長、丸笑金融の金暮サンタクという方がお見えです」
「丸笑金融?金暮サンタク?聞いたことないな。帰ってもらって下さい」
すると福服さんはそれを遮って、
「若社長、彼に会って下さい」
と言うではないか。
「一心スバルさんですね。金暮サンタクと申します。お見知りおきを」
金暮という男は音もなく社長室に入ってくる。上下グレイのスーツにグレイのネクタイ、メガネをかけて一見サラリーマン風ではあるがなにか危険な臭いをはらんでいる。
いつの間にかボクは丸笑金融の名刺を手にしていた。
「生憎お金を貴社から借りる予定はないのですが」
金暮は静かにボクの前に腰掛ける。
「もうこれ以上借りない方が賢明ですね」
「?」
男は静かに言う。
「私どもの会社は『ロイヤルエンジェルプロダクション』に10億円もの資金を融資しております。そのことを改めて認識いただけますようやってまいりました」
「じゅ・・・・10億・・・・・・」
ボクは言葉を失った。全くの初耳だった。
隣にいる福服さんを見ると、彼は静かにうなずいた。本当のことなのだ。
ふと一瞬昔に見た映画の光景が頭をよぎる。それは莫大な借金を借りた男が生きたまま臓器を切り刻まれて臓器売買で一つ一つ臓器を無くしていくというB級ホラーであった。
「そんなことはしませんよ」
(う・・・この男・・・ボクの心が読めるのか・・・)
金暮は、ボクの緊張している顔から心理を読み取ったのだ。金暮という男は取り立てのプロなのだ。
「借金を返す人を傷つけたりするのは犯罪ですからね。そんな馬鹿な真似はしません。わたしはあなたを励ましに来ただけです。ハッハッハッ」
(ううっ・・・丸笑金融という名前なのに目が笑っていない・・・・)
ふと邪な考えが頭をよぎる。
(自己破産したらどうかな・・・いや待てよ。遺産相続放棄したら逃れることができると聞いたことがあるな)
その心理を見透かすかのように金暮は釘をさす。
「前の社長あなたのお父様は‘男‘でしたよ。どんな困難に遭遇しても逃げようとしませんでしたよ」
(父は借金返済から逃げずに立ち向かって命を落としたのか・・・・・)
金暮は立ち上がる。
「福服社長、これからも長いお付き合いになりますが宜しくお願いします。
それから本当の社長一心スバルさん。
あなたも先代の息子でしたら。ドンとやってみることですな・・・・期待していますよ」
男は言うだけ言うと礼をして静かに部屋から出て行った。
残されたボクはしばし呆然とたたずむ。
ボクは恨めしげに福服を見上げる。
「福服さん!なんで借金のことを言わなかったんだよ~」
ボクの顔は半泣き状態である。
(このことを知っていたらこんな傾いた会社なんか継がなかったぞ)
「いずれ言うつもりでしたが言う前に彼が先に来ただけの事です」
と福服はケロリとしている。福服さんは続ける。
「今までもこのような危機は何度もありました。しかしわが社は何度もその危機を切り抜けてきました。心配には及びません」
(心配だよっ!)
聞けばこの前乗ったロールスロイスもボクを歓迎するためのレンタルだった。
(オイオイ借金しているのにそんなことで金を使ってくれるなよ~)
と悲しくなる。
この『ロイヤルエンジェルプロダクション』のビルも殆どの階を他の事務所に貸し出して会社自体は縮小しているのだった

なんでも父は社運を賭けた映画製作に乗り出したんだそうだ。スタッフの反対を押し切り半ば強引に莫大な費用をかけ現地南国ロケを敢行。
内容は、南海スペクタクル純愛ロマンスとかで南海の孤島で若い男と女が嵐の中純愛を貫くという内容なのだが、異常気象で本当の嵐がロケ現場を直撃。
セットが全て流されてしまう。おまけに謎の伝染病が島に蔓延して撮影スタッフ命からがら逃げ帰ってきたんだとか。
仕方なく近場の海で撮影。スタッフは必死で場面に映りこんでいる漁師、野次馬、アベック、柴犬などをCGで消す。それでまた巨費が消える。なんとか映画は完成するものの、主演男優の不倫スキャンダルが発覚。映画のイメージの純愛とかけ離れてしまい映画はお蔵入りになってしまったんだそうだ。かくて残ったのは莫大な借金の山。

「わたし福服の役割は若社長の仕事への意欲を最高の状態に保って仕事に全霊を傾ける環境を作り出すことなのです。会社の財政のことはお任せください。返済計画も立てております。しかし若社長あなたの活躍に社運が掛かっているというのも確かですので心づもりはしてください。借金も財産と思っていただけましたらよろしいです」
福服は、意欲の衰えてしまったボクを説得する。
福服はリモコンを取り出した。
(またリモコンか・・・・)
とボクはウンザリする。思えばボクのこれからの人生もこのリモコンによって操られていくのだろうか。

福服さんはリモコンのスイッチを入れる。すると壁にかけてある油絵の額がせり上がっていく。現れた壁は繰り抜かれて、中に黒光りする金庫が鎮座していた。
福服さんはダイヤルを回して金庫を開ける。中には札束がうず高く積まれてあった。
「この中に数千万円あります。活動資金です。若社長はなにか良い案があるようでしたら遠慮なくお使いくださって結構です」
福服さんは「これが金庫のダイヤルナンバーです」と数字の書いてある紙をボクに渡す。
不謹慎にもボクはこの金でどこか遠い南の国へ逃げることはできないものかと考えていた。
なんたってボクの父だって天国へ逃亡してしまったのだから。
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