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アイドルのヒ・ミ・ツ  8


朝の晴れ渡った空の元、まるでアリのような点となった人々が自分の巣穴に戻るかのようにそれぞれのビルに吸い込まれていく様子をボクは社長室からネクタイを締めながら見下ろす。
ノックして福服さんが入ってくる。
「おはようございます。若社長」
開口一番、
「なんで助けてくれなかったんだよ!」
ボクは夢で福服さんが助けてくれなかったことを責めてしまう。
「は?なんのことでしょう」
当然のことながら福服さんにはなんのことだか分からない。ボクは我に返って、
咳払いしてから、
「い・・・いやなんでもない」
と自分を鎮めるように言う。
夢の事を持ち出すほどそのときのボクは気が立っていた。
「今日の予定ですがこれから顧問弁護士が参ります」
福服さんの話によると父の財産について話し合うということだった。
「はじめまして」
と顧問弁護士が入ってきて、分厚い資料が社長の机に広げられる。顧問弁護士が父の莫大な遺産について説明を始める、その話が進んでいくうちにボクはその規模の大きさに窒息しそうになった。このロイヤルエンジェルプロダクションは手広く事業を拡大してあらゆる事業に手を出していたのだ。
スキー場経営、リゾート開発、ゴルフ場経営、ホテル経営、化粧品販売、健康食品販売、伸ばしている触手は枚挙にいとまがない。
景気が良く全ての事業が利益を上げているならボクはカノジョのハート射止めるため、夏はリゾート地へ冬はスキー場へ連れて行き
「はっはっはっ、これは全てボクのものなんだぜ」と自慢して自分のホテルへ連れ込んだであろう。
しかしこの会社も往時の『ロイヤルエンジェルプロダクション帝国』の勢いも父が死んだことで衰え、このままの経営状態を続けていくことは困難と思われた。
それに素人目に見ても明らかに手を広げすぎであった。
ボクは取りあえず赤字になっている経営から手を引き、事業を売却あるいは廃止して徐々に縮小していくことにする。
中には大きな赤字経営になっている事業もあり更に借金が増えてしまうのではなるのではとハラハラしたのだが財産整理が終わってみると借金は増えることも減ることもなく10億円のままで喜んでよいものか悲しんだらよいものか複雑な気分であった。


「わが社で倹約を社員たちに勧めていきたいんだけど」」
ボクは福服さんに提案する。
「よろしいんではないでしょうか」
電気代を節約するため昼休みは一切電気を消すという御触れをメールで社員全員に送信する。社長室も来客のないときは電気を消すということにした。
書類などは電子版にしてコピー紙を使わないことにする。社員への3時のおやつのアメの配布の中止。文房具は社員それぞれが自分で購入すること。などなど。
色々な施行案をリストアップする。
その時ボクのデスクの傍に寝そべっていたロンがムクリと起き上って、
「ウウウウウウ」
と窓の方に向かって唸り声を上げる。
振り返って見るとゴンドラの乗った窓ふきの掃除人が外からガラス窓を拭いている。ロンはボクを襲おうとロープで何者かが下りてきたのかと勘違いしてしまったようだ。
ボクはロンの首筋を撫でて、
「心配ないよ」
と言う。外の男が敵ではないと解ったのか賢いその犬は再び床に寝そべるのだった。
ボクは暫し思い直したのちリストの『ラブラドール・レトリバー ロン』の文字を二重線で消した。
「おや?若社長・・・犬は里親に出すのではなかったのですか?」
この大きな犬のエサ代もバカにはならない。ボクは経費削減の一貫としてこの犬を里親に出そうと思った。しかし父も亡くなり母からも離れ離れになってしまった今のボクにとっては唯一の肉親のような気がしてきた。
「我がままを言うようだけど。ロンと共に暮らしていきたいんだ・・・それでもいいかな?」
「若社長のご判断にお任せします」
基本的に福服さんはイエスマンなのだが、この時ほど安心した「イエス」の返事はなかった。

(他に倹約できるものはないものか・・・・)
ボクはあらん限りの頭を絞る。
その時福服さんが心配そうに意見する。
「お疲れでしょう若社長。そろそろ昼食を召し上がられては?」
壁の時計を見るとなるほど、針は2時を指していた。
「そうだね」
「昼食はほんの少しだけ豪華にしましょう。近くの老舗の食事処から懐石料理を出前させますから」
携帯電話を取り出す福服さん。
「え!?」
(なんだってお昼に懐石料理だって!?)
ボクは耳を疑う。
今にもその五つ星の高級料亭に注文を取ろうとしている。
「ス、ス、ストーーーーップ!!!!電話やめいっ!」
福服さんはきょとんとしている。
「やっぱり若社長には相応しい昼食を取っていただかないと。あなたのお父様も昼食はヘリコプターで300キロ離れた田舎のソバ名産地にソバをすすりに行っていたものでしたよ」
一体親父はどういう生き方をしてきたんだ。
「い・・・いいよ。コンビニ弁当で昼飯は済ませるよ」
ボクは引きとめようとする福服さんを振り切って社長室を飛び出した。
全くこの福服さんという男の金銭感覚はどうなっているのだろうといぶかってしまう。
あとで分かったことだが昼に福服さんが社長室に届けて今まで何気なく食べていた弁当は
全て特注のもので米や肉は最高級の素材のものを使ったものであった。ボクはそれを聞いて恐怖した
(ただでさえ会社は火の車なのに・・・・)
ボクはそそくさと逃げるようにエレベーターに乗り込む。犬のロンも一緒に乗り込んで来た。社長専用のエレベーターで一階に到着。降りたところで警備員がボクに敬礼する。ロンもボクと一緒に外に出ようとするので、
「待て!」
の合図で社内に待機させる。大きな犬なんて連れて歩いたら目立つことこの上ない。
しかし福服さんの言うことももっともである。会社の社長であるボクが安い弁当を買っている姿を見たら人はどう思うだろう。
なるべく遠くのコンビニエンスストアまで歩く。わが社の社員がいないことを確認してから中に入る。昼休みも終わった時間帯なので会社員らしき姿は見られなかった。こそこそ隠れるように安いコンビニ弁当と安いペットボトルを手に取りレジへ直行する。
「キャッ。ちょっと見てよ」
「わっ、本当!」
「やるわね~」
ボクは一瞬ビクッとしてしまう。
(社長であるボクが安弁当を買っている姿を見られてしまった・・・・)
振り返って見ると、女子高生3人が雑誌コーナーでタレント雑誌を覗いてはしゃいでいるのだった
「この人素敵ね~」
「うん」
「好み~」
試験休みなのか合間の息抜きしているようだった。
女子高生たちはボクに背を向けてタレントの写真に夢中になっている。どうやらボクは自意識過剰になってしまっているようだ。世間体を気にしてしまうことに窮屈さを感じてしまう。
全く悩みのない様子で今の時を謳歌している女子高生の姿。
(まったく女子高生ってのは気楽でいいよな。女子高生にでもなってみたいよ。そうしたらこんな気苦労はしなくていいものを)
と愚痴っぽく思ってしまった。
しかし後にボクがその女子高生になってしまうとはまだこの時知る由もなかった。

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