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アイドルのヒ・ミ・ツ 10

その夜ボクは社長室で一人目を血走らせてパソコンを睨み付けていた。12本目の栄養ドリンクをストローで吸う。
そもそも部下を頼りにしようとしたのが誤りだった。社長としてのボク自身でプロジェクトを立ち上げるべきなのだ。
なにか良い案はないか突破口となるものがあるはずだ。ボクはあらゆるインターネットのページを繰った。何百ページ目かでボクの目に留まった言葉があった。
それは『細胞原子分解再構成装置ゼウス』というものだった。
詳しく読んでいくとこの世に存在する万物は原子で構成されている。そしていけとし生きるものを作り出している細胞もまた原子で構成されている。
『細胞原子分解再構成装置ゼウス』はその字の通り細胞を原子分解して全く別の細胞に再構成するのだ。
つまりはその人間の姿かたちを全く理想的な体に変えることだって可能なのだ。指紋までが変えることができ年取った細胞も若々しい細胞に変化させることができるそうだ。脳の情報はそのまま固定され記憶はそのままに保たれる。つまり自分が望む全くの別人になれるってことだ。
(なんて素晴らしいんだ!)
ボクは、はたと膝を打つ。
ボクはこの情報にすぐさま飛びついた。
さらに詳しく調べる。この装置の発明者は夢現ナルタ(65歳)と言い、写真が掲載されていたのだが明らかに映画や漫画でよく見るマッドサイエンテストといった風貌で白髪が伸び放題でその堅い針金のような真っ直ぐな髪が放射状に爆発したような顔はいかにも頑固を絵に描いたようである。丸い眼鏡をかけ、度の厚いレンズから鋭い眼光を覗かせている。
国内の学会では全く相手にされておらず変人扱いされているのだか欧州のほうではかなり名の知れ渡って評価もされているようであった。
その博士の所在は『細胞未来研究所』という所で、地図で調べるとこの会社から2時間ぐらいの距離のところだった。

翌朝ボクはホームページで『細胞未来研究所』を検索し電話番号が書かれてあるので早速そこに電話をする。暫くコール音がしてなかなか出てこない。あきらめようかとしたその時。
「なんじゃ!」
と大声で不機嫌そうな声が飛び込んできた。
頑固そうな口調でこの電話口に出た男こそ夢現ナルタ博士その人だと察しがついた。
「始めましてわたくしロイヤルエンジェルプロダクション社長一心スバルと申します・・・」
「セールスならお断りじゃ!ワシは今忙しいんじゃ」
相手は電話を切ろうとする。ボクはあわてて
「博士の『細胞原子分解再構成装置』に興味がありまして」
「ほう!」
博士は少し興味を持ったようであった。ボクは畳み掛ける。
(こういう男には単刀直入に言った方がよさそうだな)
「こちらには博士の研究費用を用意しております」
そしてボクは容姿に悩んでいる女性がいるので彼女をどうしても理想の姿に変えてやりたいのだと切々と訴えた。しかし博士にはそんな女性などより研究費の方に関心があるようだった。
「で・・・いくら払えるんじゃな?」
「一千万円でどうでしょうか?」
「話にならんな」
「今キャッシュですぐ用意できるのはこれだけですが。ゆくゆくは博士の『細胞原子分解再構成装置』でわが社の全てのタレントをお世話していただきたいと思いますので。なにとぞ今回はこの値段で折り合っていただけませんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・」
暫く沈黙が続く。
「是非!」
必死にすがる様に食い下がった。
「フン・・・よいじゃろう」
キャッシュという言葉が効いたらしい。福服さん仕込みのにわか交渉術が役に立った。どうやら向こうもこちらの事を試しているようであった。ボクが本気なのかどうかを。

ボクの計画っていうのはこうだ。
あの長閑モラっていうあの田舎娘を『細胞原子分解再構成装置ゼウス』によってアイドルとして理想的な姿に矯正して売り出すというものだった。父の血を受け継いでいるためなのだろうかボクには根拠のない自信があった。
インターネットで博士からファイルが送られてくる。ボクはそれをダウンロードする。
そのファイルにアイドルとなる理想とする体型などを入力するのだ。
(おお・・・理想の性格まで入力できるのか・・・)
ボクは嬉々としてデータを打ち込んでいく
年齢はあの長閑モラと同じ16歳。
性格はちょっとか弱く、心優しい性格、大衆に親しまれるように。
ボイスサンプルから理想の美しい声を選び出す。人の心を震わせる声にはF分の1の揺らぎが必要なのだそうだ。もちろんそれも追加する。
スカウトするときの基準となるという父の作ったあのコンピューターソフトを応用することにする。
過去現在の女性アイドルのデータをすべて投入してその平均となるアイドル像を割り出す。時代のベクトルを加えたところでバーチャルのアイドル像が浮かび上がってきた。コンピューターが作り出したアイドル像はどこか無機質なのでそこに自分の好みである断片を書き込み親しみやすいアイドル像が完成した。その新アイドルの情報を早速細胞未来研究所に送信する。このアイドルデータは夢現ナルタ博士によって『細胞原子分解再構成装置ゼウス』に入力されるのだ。

若いっていうことはなんて素晴らしいんだろう。一睡もしていないのに体の中にますます気力がみなぎって来るのを感じる。社長室に朝日が差し込みボクの全身を照らす。
理想のアイドルが完成してこれで終わりではない。次に休むことなく企画書を練る。
このアイドルをいかにして売り込むかの計画書を作成するのだ。
パソコン上で言葉をいろいろと並び替えてこれから新しく売り出すアイドルの名前をあれこれと考える。ふと昔母と言葉遊びをした思い出が蘇った。西洋には言葉の積み木を並べ替えていろんな言葉を作るゲームがあった。イギリスに語学留学の経験があった母はそのゲームを応用して言葉を並べ替え幼いボクに言葉を教えてくれた。ボクが三歳のときの母との最期の楽しかった記憶だ。
アイドルの名前が決まった。
『城崎ルンナ』
べつに意図したわけではないのだが母の名前の一字が入っていた。
数時間後企画書が完成する。その間福服さんになんびとたりとも社長室に入らないよう釘をさしていた。おかけで集中することができて会心のプロジェクトが完成した。プロジェクト名は『プロジェクトXX』とした。
プロジェクトXX(ダブルバッテン)のXというのは、おくちにバッテン。つまり内緒ってことだ。そのバッテンがダブル二つあって最高機密トップシークレットって訳さ。自分のネーミングセンスの良さに惚れ惚れとしてしまう。
企画の一部分を社員全員のパソコンに送信する。『細胞原子分解再構成装置ゼウス』を使うことなどは極秘事項として明かさない。

電気髭剃りで顎を撫でながら福服さんに電話を掛ける。
「おはようございます。若社長」
「ああ、おはよう。今すぐ昨日の長閑モラって子を連れてきてくれないか」
「プロジェクトを立ち上げたのですね」
早速福服さんはプロジェクトXXの計画書を見たらしい。
「ああ・・・長閑モラを売り出すことにした。だから本人の了承を取りたいんだ」
「しかし担当の後祭は生憎健康診断に行って不在なのですが」
(それは好都合だ。あの後祭って男がいたら事がややこしくなる)
「いいよ、モラだけ連れてきてくれたら。そうそう本人には売り出すことにしたことは言わないでくれ。ボク自身の口から言いたいんだ」

「席を外してくれないか」
ボクは長閑モラを連れてきた福服さんに言う。なにか言いたげであったが福服さんは速やかに社長室から出て行った。
社長室にいるのはボクとモラ二人きりだ。ボクはモラに席を勧める。ボクの前に座ったモラはどこか落ち着きがない。
「君の履歴書を見せてもらったよ」
ボクは福服さんが用意した履歴書に目を落とす。
『長閑モラ
亜佐川県とんとろ村出身
得意 漬けること。漬物作り
両親と生き別れ。祖父母に育てられている
趣味 米ぬかをこねること』
「なかなか君も苦労しているんだねぇ」
色々と長閑に質問をして形ばかりの面接をする。本当の目的は『プロジェクトXX』を同意する契約書にモラに署名させることだ。
「君はボクに一生懸命にやると言ったね。アイドルになるためならなんでもやってくれるかな?」
モラはコクリと頷く。
「それを聞いて安心したよ。よし!」
ボクは一呼吸置いてから決めゼリフを言う。
「君をとびっきりのスターにしてあげるよ」
「本当け!」
モラの顔が輝く。
「その代わりと言ってはなんだが条件がある」
モラの表情に不安の影が射す。
「なあに大したことじゃない。ちょっとした整形手術を受けてもらう。君だってそのままの姿でデビューできるなんて思っていなかっただろう?」
「・・・・・・・」
「ボクに任せてくれたまえ。悪いようにはしないよ」
そう言ってモラに契約書を差し出す。
「君がそれにサインしてくれたら我が社は全力を尽くして君を輝けるアイドルにすることを約束するよ」
一瞬躊躇しながらもモラは震える手で契約書にサインをした。
(やった!)
プロジェクトXXは動き始めたのだった。
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