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アイドルのヒ・ミ・ツ 12

全身に消毒の紫外線ライトを浴びてから観音開きの扉を開くと、飛行機の格納庫のような広い空間が開ける、博士がスイッチを押すと薄暗いライトが灯る。目を凝らすと壁に巨大なパイプが蛇の様に不気味に曲がりくねって這うように張り付いている。パイプが絡み合っているため広いにもかかわらず圧迫感を感じる。その圧迫感からの唯一の救いといえば天井が明り取りのガラス張りでそこから外からの明かりが取り込めることになっていることだろう。しかしこの日の嵐で雨風がしぶきのように叩きつけて圧迫感を和らげる役目を果たしてはいなかった。所々で機械が唸りをあげている。その時稲妻が閃き、光が中央に30メートルはあろう巨大な金属球が浮かび上がらせた。映画の効果音のように雷鳴が響く。唖然と見上げるボクを尻目に博士は壁際にある制御装置に向かいクリスマスツリーのイルミネーションライトのように色とりどりに点滅するスイッチの一つを押す。すると地鳴りの様に響きながら巨大な金属球が真っ二つに割れ始めたではないか。重金属独特の軋む音が反響する。開いた金属球は中が空洞になっておりその間の根元に床照明に照らし出された一つのピンクの椅子が現れる。施術を受けるであろう者が座る椅子なのだろう。椅子には獲物を待つ怪物の疑似餌にも感じられた。通れるくらいの距離のところで金属球は停止する。
「これが『細胞原子分解再構成装置ゼウス』じゃ」
博士は得意げに話し続ける。
「あんたから貰ったデータはすでに打ち込んである。あとはその娘がその椅子に座るだけでお望みの美女ができるって寸法じゃ」
ボクは自分の中に期待の衝動が湧き上がってくるのを押さえることができなかった。これによって新アイドルが誕生するのだ。驚く福服さんや後祭らスタッフたちの顔が目に浮かぶ。
「さあ!娘さん服を脱いで裸になりなさい」
博士の言葉に一瞬我に返る。
「裸になるって・・・・?」
ボクはモラを見ると恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまっている。この無機質な研究所に更衣室と言った気の利いたものはなさそうであった。
「このままの姿で細胞原子分解再構成装置に彼女に入ってもらってはダメなんですか?」
ボクは思いがけない障壁にまごついてしまう。
「べつに服を着たまま入ってもらっても良いがな。ゼウスは全ての物を原子分解してしまう。着ている服も原子分解されてしまうので施術が終わったあと娘さんは真っ裸じゃぞ。それでもいいのかな?」
研究一筋のデリカシーのない博士から、いたいけない少女を救うべく見かねた美玉助手が助け船を出す。
「あなた社長さんなんでしょ。あなたの部下に新しい服を持ってきてもらったらどうかしら?この子の体型も変わってしまうことだし」
(それは良い考えだ。どうせ福服さんが迎えに来ることになっているんだ。ついでに服を持ってきてもらえば全てが滞りなく進行できる)
「そ、そうですね・・・博士、ちょっとお待ち願えますか?」
ボクは携帯電話を取り出す。
『もしもし福服です』
「あ・・・ボクだ。長閑モラの手術を今から行うんだ」
『え・・・・今からですか』
長閑モラのイメージチェンジのことは企画書で確認済みなのだが突然のことで副社長も不安げな様子が伝わってくる。
「なあに心配することはないよ。ほんの短時間で終わってしまう整形手術なんだ。それより急なことですまないんだけどモラの体型が変わってしまうんで彼女の新しい服を持ってきてほしいんだ。今から変身後の彼女の体のサイズを転送するよ。それに合ったカワイイ服を頼む」
サイズと一緒にあらかじめ用意していた新しいアイドルの服装の絵を参考用に転送する。フリルの付いた赤と白で構成されたカワイイ服であった。
『社長、それでしたら秘書の安桃も連れていくことにします。私は女性の服に関してはうといので・・・・少し遅れますが』
「ああ…頼んだよ」
ボクは携帯電話を切る。
「お手間を取らせました。服を持ってきてもらうことにしましたので、このままの恰好でお願いします」
その時壁の電話がけたたましく鳴った。待機していた美玉助手が受話器を取る。
「博士、ただ今空港行きのタクシーが参りました」
「そうか・・・・施術が終わるまでワシが見届けてやりたいところじゃが。もう時間がない。今からワシは欧州に飛ぶ。欧州の科学医学界がワシを表彰してくれるというんでな。行かねばならん」
「この嵐だと飛行機が飛ばないのでは?」
ボクの問いに、
「フン。ワシのコンピューターではあと3時間くらいで嵐は過ぎ去ると出ておる」
と博士はにべもなく答える。
博士が白衣を脱ぐとすでにスーツ姿になっている。美玉助手がキャリーバッグを転がしてきた。ボクは心細くなった。
それを見抜いてか博士は、
「なあに、あとはボタンひとつ押してその子が椅子に座るだけじゃ。そのあとは機械が全てやってくれるよ。馬鹿でもできる。心配無用じゃ。3時間もすればことは終わるよ。」
博士はボクに一際大きく赤く光るボタンを示す。
「くれぐれもボタンを押し間違えんようにな・・・・といっても他のボタンを押したところでブロックされているから大丈夫じゃがな。
ああ・・・施術が終わって研究所を去る時ドアは閉めるだけでよい。自動ロックになっているからな」
博士と美玉助手は出ていき、ボクとモラ二人がポツンと残された。ボクは自分を奮い立たせるように、
「さあ、始めようか!博士によると痛みはないから怖がることはないよ」
「・・・・・・・・」
しかしボクは彼女に恐怖心を植え付けていることに気が付いていなかった。
恐怖映画でよく怖さを醸し出すために表情の下から煽る様にライトを照らす演出があるが今のボクはまさにその表情になっていたことに不覚にも気付かなかった。床照明のライトが下からボクの表情を照らし墓場から出てきた死人のような形相になっていたのだ。
ボクはモラを『細胞原子分解再構成装置ゼウス』の手術台へ導こうとする。
「さあ・・・ここへおいで・・・・」
ボクは優しく少女を装置の中の椅子に腰かけさせようと腕を掴んだつもりだった。ここで長閑モラの恐怖は最高潮となった 。
「オラやっぱり怖えぇぇぇぇ!いやだべーーーーーーー!!!!!」
思いがけない力でボクは少女にはね飛ばされた。
ボクはヨロヨロと後づさって床に横たわっていた配線に靴の踵がひっかかってそのまま加速し勢いづいて『細胞原子分解再構成装置ゼウス』の椅子にすっぽりはまり込むように座ってしまった。
すると椅子の脇から金属のベルトが次々と飛び出してきてボクの首、腕、手首、腹、胸、腿、足首と絡みつくように巻きついて来たのだ。ボクは椅子に固定され全く動けなくなってしまった。そして耳に金属の軋む音が飛び込んできた。今度は金属球が閉じられていく音だった。逃げたくても動くことができず唸り声を上げて球体は閉じられていくのを見ているより他なかった。その隙間から走り去っていく長閑の後ろ姿が目に入る。
「誰か助けてくれーーーーーー!!!!!」
ボクの叫びは『細胞原子分解再構成装置ゼウス』の閉ざされた金属の壁の中でむなしく反響するのみだった
やがてガス漏れのような音がする。それは麻酔ガスであった。ボクの意識は遠のいて行った。


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