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アイドルのヒ・ミ・ツ

思えばボクの父は仕事一筋の男であった。当時どこの馬の骨ともしれない女の子を連れてきては入れあげアイドルスターにしようと励んで一切家庭のことなど顧みようとしなかったのだ。母はそんな父に嫌気がさし離婚を申し出て実家へ帰ってしまった。ボクが三歳の頃の話だ。父は強引にボクを引き取り母から引き離した。悲しいかな母にはそれ以来会っていない。そんなボクがグレることなく肉体精神とも健康に育つことができたのは父方の祖母のおかげだ。彼女はボクに一杯の愛情を注いでくれ、金銭的にも裕福だったので好きなものを買い与えてくれた。父にはめったに会うことが無かった。会ったとしても黙ったまま向き合って食事をするぐらいのことだった。父は愛情表現の下手な男で今思えばそれが精一杯のことだったのだろう。教育費養育費は父が出していてくれたので一流の私立小学校、私立中学校、私立高等学校に進むことができた。しかしそこは管理された窮屈な世界であった。中学3年の時祖母が亡くなりボクは無理やり寮に押し込められ窮屈さは倍増した。やがて反抗期を迎え自分は父のようにはなるまいと父の反対を押し切って法律家になることを決心して大学は法学部に合格した。そしてその田舎の大学で羽根を伸ばして自由を満喫しているそんな矢先に父の死の知らせが入ったのだった。

ボクは隣の男に揺り起こされた。
「さあ、着きましたよ」
ずいぶん走ったのか外は真っ暗になっていた。車の照明のライトで彼から貰った名刺をもう一度盗み見る。
ボクの隣の男は‘福服アルム‘という名前でどうやら社長である父の側近をしていたらしい。肩書の欄に‘副社長‘と記されてあった。
ベンツは闇夜に浮かぶ白いベンツに横づけされた。下りるとひんやりとした外気が頬を撫でる。ボクは思わずブルッと身震いした。
ここは通夜の会場らしかった。会場に入るとさらにひんやりとした空気が立ち込めている。正面は白いユリで埋め尽くされ大きな父の気難しい顔写真が飾れてあった。
ボクは福服に導かれ会場の正面に安置されている白い棺に向かった。線香の臭いが鼻腔に入り込んできた。棺を覗き込むと明らかにそこに白い着物を着た父の姿があった。
本来ならここで涙の一滴でも出そうものなのであるが不思議とその時冷静で何の感情も沸き起こらなかった。たぶん父と過ごした時間が余りにも少なかったためであろう。ボクは型通りの焼香をする。振り返って後ろに列席している人たちを見るとボクとは全く真逆の反応をしている。或る者は涙を浮かべ、また或る者は無念の表情で噛みしめている。なかには人目をはばからず号泣している者までいる。父がいかに部下たちに慕われていたのかを垣間見ることができた。
通夜は身内だけで行うといったひっそりとしたものであった。身内とはいっても父は親戚付き合いなど一切しなかったので親戚の顔ぶれなど一切なく、ここで言う‘身内‘と言うのは父の会社の部下たちということだ。その部下たちに混ざってボクも参列する。
やがてお坊さんがやってきて父のお棺の前に座りお経を唱え始めた。その声は子守唄の様にボクには心地よくいつまでも聞いていたいような調べであった。

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