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アイドルのヒ・ミ・ツ 4

ボクを乗せたロールスロイスはビルの前に横付けされる。降りてボクはビルを見上げる。陽の光がビルを覆うガラスに反射して眩しいので思わず手をかざす。切りそろえられた低い植木の中にある黒光りする花崗岩のプレートが据えられてある。そこには『ロイヤルエンジェルプロダクション』と彫られた文字が金色に輝いている。父が一代で作った芸能プロダクションだ。
生前父は「見学に来ないか」と誘っていたがボクは頑なに拒んでいた。
(来るつもりなんてなかったのになぜ来てしまったのだろう・・・)
ボクに後悔にも似た気持ちが沸き起こる。
ビルの下の方はタレント養成所になっているそうだ。ボクは福服に導かれるままにエレベーターに乗り最上階へ。予め福服が連絡していたのでエレベーターの扉が開くと一人の女性がボクを出迎えてくれた。事務的な紺色のスーツを着たどこか上品な香りのする女性だ。胸には金色の『ロイヤルエンジェルプロダクション』の紋章のような布のマークが縫い付けられてある。
福服は紹介する。
「あなたの父上の秘書をしていた安桃レルです。引き続きスバル様の秘書をしてもらおうと思っております」
明らかに彼女はボクより年上なのだが丁寧に
「よろしくお願いします」
と礼をする。ボクもコメツキムシみたいの反射的に礼を返してしまった。
エレベーターを下りるとそこはすぐ受付になっている。応接室も兼ねており細長い応接机を挟んで革張りの白い大きなソファが向かい合って置いてある。客が気持ち良く話しができるよう邪魔にならない程度の音量でクラッシック音楽が流れていた。
「こちらへ」
と福服は奥へと進み突き当りの重いドアを開けた。
「わあぁ」
思わずボクは声を漏らしてしまう。そこは社長室であった。重厚な赤い絨毯が敷き詰められて中央に如何にも重そうなマホガニーの机が据えられている。なによりも圧倒されたのは正面がガラス張りでそこからこの町が見渡せたのだ。僕は特注の革張りの回転椅子に腰かける。なにもしていないのに天下を取った気分になる。壁には値段の高そうな油絵が掛かっている。隅の方にグランドピアノが見える。父はピアノを弾くことができた。時々父自らピアノを弾いて自社のタレントに歌の指導をしていたのだ。残念ながらボクにピアノを弾く才能はない。暫く椅子を揺らして回転させてじゃれる。
ボクはいきなり思い出す。
「あっ、福服さん。携帯電話を下宿に忘れてきてしまったんだけど返してもらえないかな?」
「あなたの下宿のものは今全て処分しました」
先ほど車の中で福服が『処分するように』と言っていたのはこのことだったのだ。
「そんな・・・あんまりだ・・・ひどいよ!なんの権限でそんなことをするんだ!」
ボクは半分泣きそうになりながら訴える。
「昔の生活を忘れて今の仕事に打ち込んでもらわないと困ります。あなたが『このビルに来た時点で社長の椅子を引き継ぐと見なし過去のものを処分するように』というのがあなたのお父様の遺言です」
有無を言わせぬやりかたにいささか反感を覚える。
福服はリモコンを取り出すとスイッチを入れる。すると自動カーテンが社長室を暗闇に覆い尽くす。そして目の前の壁に白い大きなスクリーンが沿って下りてくる。天井に四角い穴が開くとそこから小型映写機が音もなく下りてくる。そこから出た光の筋がスクリーンに映像を映し出した。
そこに映しだされたのは死んだばかりの父の姿であった。映像の背広姿の父は正面にいるボクを見つめる。
「やあ、スバル元気にしているかい。この映像を見ているとき私はすでにこの世にはいないだろう。この世を去る前におまえに是非言っておきたいことがある」
思いがけない再会であった 思わず腰を浮かす。
父はまるで生きているようにボクに語りかける
「いや・・・これはお願いと言った方が良いかもしれない。おまえにわたしの跡を継いでほしいんだ。家庭を顧みなかったわたしがおまえにこんな願い事をする義理はないかもしれない。しかしわたしは信念と誇りを持ってこの仕事をやってきたつもりだ。これは夢を売る仕事だ。夢を人々に与えるということは素晴らしいことだぞ。人々に元気を与え、人々は明日生きる力を湧きおこす。人々が感動して泣いたり笑ったりする顔を見る至福の時をおまえにも味わってほしい。おまえは私の子だ。親馬鹿と言われるかもしれないがわたしの目に狂いはない。おまえにはその素質がある。生きているときもっとおまえと話がしたかった。だけどおまえはなにかとわたしを避けていたからね。わたしは大学へ行きたいというおまえのわがままを聞いてきた。今度はわたしの最期のわがままを聞いてくれてもいいんじゃないかな?あまりに喋りすぎるとまたおまえに嫌われてしまうかな。そろそろ終わりにしようか。じゃ健康に気を付けて。おまえの嫁さんや孫を見られなかったことが心残りだ。しかしもし天国と言うものが本当にあるんだったらおまえのことを見守っているからね。じゃあな」
父は照れ臭いのかおどけるように敬礼のポーズを取った。
父の最期のメッセージが終わると部屋は真っ暗になる。沈黙の中ボクは福服さんにお願いをする。
「カーテンはまだ開けないでくれないかな」
ボクは暗闇の中で通夜葬式では出なかった涙を流していた。
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