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アイドルのヒ・ミ・ツ  7

ボクは父の住んでいたマンションを売り払って父の家財道具一切をオークションに掛け借金返済に充てることにした。ボク自身も住居代わりにしていたホテルを引き上げ社長室に寝泊まりすることにする。
福服さんは、
「社員たちに示しがつきませんのでどこかに居を構えてくださった方が宜しいのでは・・」と困惑しているのだが、
(そんな悠長なことを言ってられるか)
と緊縮財政を断行することにした。とは言うものの父の残したものを返済に充てたところで焼け石に水だった。

父が死んでこの会社は運から見放されてしまったようだ。
「若社長大変ですっ!」
突然社員が血相を変え社長室に飛び込んでくる。
「ウチの所属タレント聖林リンが急性盲腸で近くの病院に搬送されました!」
「なんだって、それは困ったことになったな。空いた穴をうちの南山コロコに埋めてもらうしか・・・」
福服さんは聖林リンの見舞いなどの手続きを取るため部屋を出ていく。
その時また別の社員が飛び込んでくる。
「若社長!南山コロコがホームシックを罹って実家に帰ってしまいました」
「なにっ!すぐに実家に電話するんだ」
「は、はいっ」
部下はすぐさま電話する。
「もしもし・・・・・」
電話の相手はコロコの母親のようだ。待ちきれずに聞いてみる。
「どうだ?」
「ダメです。うつ病になって部屋に引きこもって出てこないそうです」
「そ・・・そんな・・・」
ボクは絶句してしまう。傾いた会社を立て直さなければならない大事な時期なのに。
携帯電話が振動する。
「もしもし若社長、大変です」
別の部下からであった。
「今度は何事だ?」
「うちの星空スワンが書置きをして駆け落ちしました」
「なに!コンサート会場の契約をしたばかりだぞ!なんとしてでも捕まえるんだ」
「ダメです。どうやら国外逃亡した模様です」
「なんてことだ・・・・」
その後も数々のゴタゴタにボクは振り回されることになる。
そしてボクの会社の所属タレントはほぼ壊滅状態に陥ってしまった。

ボクは薄暗い部屋に監禁されていた。
所々の漆喰が剥がれレンガがむき出しになっている。どこかの地下室なのだろうか天井から滴が垂れる音が断続的に空虚に響いている。部屋の中はひんやりとしている。寒気を覚え自分はと見ると、上半身裸で足にはなにも履いていない身に着けているモノと言えばズボンだけ。手首、足首、腰、首と鉄パイプで固定され身動きができない。ボクの身体は大きな金属の板の上に磔状態となっていた。
気配を感じて首をねじってそちらの方を見る。かすかな蝋燭の光に目を凝らす。
そこに福服さんがアイスキャンディーを舐めながら立っていた。
「若社長、あなたには失望しましたよ」
福服さんがぶっきらぼうに言う。
別方向から声がする。
「そろそろ始めましょうか」
部屋の隅から男が椅子から立ち上がった。黒い服を着ていたので今までその存在に気が付かなかった。
現れ出でたのは金暮サンタクであった。あの金融業の男だ。彼は上下黒い革の繋ぎを着ている。メガネのガラスにロウソクの光が反射して目の表情は読み取れない。
「若社長、お覚悟を」
彼はそう言うと傍に置いてある木の机からなにかを取り上げる。よく見るとそれは『猫じゃらし』であった。金暮は両手に猫じゃらしを持ってボクをくすぐり始めた。脇、腹、首、股間と小刻みに震わせて猫じゃらしを這わせる。
「うひゃ・・・あはっあひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・く、くすぐったい!や、やめて・・・あはははは・・・・」
ボクは必死に抵抗しようとするが身動きできずされるがままだ。
「福服さん・・・た・・・助け・・・・はははは・・・て・・ははは」
ボクは必死に助けを求める。しかし彼はボクの方へ近寄ってくると、今しがた食べ終わったアイスキャンディーの棒を差し出す。それには焼き文字で『当たり』と見て取れた。
「若社長、『当たり』ましたよ。羨ましいでしょう?もう一本アイスキャンディーが食べることができるのです」
福服さんは得意げに言う。
「でも若社長あなたにはあげませんよ」
彼は踵を返すと重い鉄の扉を開けると出て行ってしまった。閉める時隙間から一瞬石の上り階段が見えた。やはりここはどこかの地下なのだろう。福服さんの足音が次第に遠のいていく。福服さんはもう一本アイスキャンディーをもらいに行ってしまったのだ。
「どうです・・・ふふふふ・・・一心スバルさんこれが借金を踏み倒した者が受ける報いなのです」
尚も陰湿な金暮のくすぐりは続く。ボクは首を左右に振りながら笑い転げるしかなかった。
「わたしは今でこそ金融業者をしているんですが実はコメディアンになりたかったのですよ。だから人が笑っているのを見るのが大好きなんですよ・・・・」
なんということであろうか。この哀れな男は人を楽しませて笑わせるという本当の意味を分かっていないのだ。
その時階段を下りる音が聞こえてくる。
(ひょっとして福服さんか・・・・?)
しかし足音は一人ではなかった。少なくとも二人の足音が階段を下りてくる。
(福服さんが仲間を連れて助けに来てくれたんだ!)
追い詰められている人間は自分の都合の良いように考えるものだ。その足音は重々しくゆっくりと階段を一段一段踏みしめるように下りてくる。
そして扉は軋みながらゆっくりと開かれた。
「まいどありぃ!ご注文の棺桶をお届けに参りました」
棺桶職人が西洋風の重い黒い棺桶を二人掛かりで担いで持ってきたのだった。男たちは慎重に棺桶を笑い続けているボクの傍の床に置く。棺桶の蓋にはボクの白黒の写真が張り付けられてある。しゃがんで愛おしそうに棺桶を撫でながら棺桶職人の男はボクを見上げるとニタリと笑った。望みは完全に絶たれたのだ。
笑い死にしたボクはこの棺桶に入れられ人知れず葬り去られるのだろう。
金暮は巧みにボクの急所を責めてくる。
「ふふふふふ・・・・どうですくすぐったいでしょう・・・・」
「あひゃひゃひゃひゃ・・・や、やめてく・・・ふははははは・・・腹がよじれるぅ・・・・・し、し、し、死ぬぅ・・・」

「あはははは・・・くすぐったい・・・やめ・・・ハッ!!!!」
ボクは目覚める。気が付けばボクは社長室のソファの上で横になっていた。立て続きのトラブルから来る疲労でうたた寝してしまったようだ。すぐ目の前に犬の顔が飛び込んでくる。父がマンションで飼っていたけれどマンションを引き払ったので取りあえず会社で飼うことになったラブラドール・レトリバーだ。
ロンと言う名のその犬はボクがうなされているのを見て起こそうとくすぐっていたのだった。
「夢か・・・・・」
思えばリアルで恐ろしい夢であった。
ボクは福服さんが架けてくれたであろう毛布から出てソファに座り直す。体中汗びっしょりになっている。シャツとズボンのまま寝てしまっていた。
ロンの頭を撫でる。ロンは嬉しそうにシッポを振った。
「なんとかしなきゃあな・・・・・」
ボクは誰に言うともなく呟いた。

アイドルのヒ・ミ・ツ 6

会社の会議室の部屋でボクは一人落ち着かなかった。鏡を見て自分の身なりを確認する。スーツは出来立てなのにも関わらず付いてもいない埃をはたく、髪を整える。そんな時ノックの音が響く。
ボクは
「どうぞ」
と客を迎え入れる。入ってきたのは皆ボクより年上の三人の男たちだ。
ボクは一人でこの男たちと交渉するのだ。
次回自社のタレントのコンサートを開くにあたっての会場を借りる契約を行うのである。
早速相手のトップの男が提示額を示す書類を出してくる。ボクはもっともらしく
「ほーこの値段ですか」
と金額を口にする。するとボクの耳にはめ込まれたワイヤレスの小型イヤホンから
『若社長、その値段は高すぎます。もっと下げることができます。この値段を提示してください』
と福服さんから指令が聞こえてくる。
(この連中ボクが若いと思ってふっかけてきてるんだな)
実はさっきボクが身だしなみを整えていた鏡はマジックミラーになっていて隣の部屋から福服さんがボクたちの交渉を見守っているのだ。
ボクは福服さんの提示した金額を相手に言う。
「この金額でできるはずです。これでお願いします」
その金額を見た三人の男たちはしばし顔を突き合わせてヒソヒソと相談している。
「いや~まいりましたな。お父さんと違わずなかなか手厳しいですな」
ボクの提示した金額で交渉は成立しボクは三人の男たちそれぞれと握手を交わした。

「お見事でした。若社長」
福服の誉め言葉を聞いてもボクは面白くなかった。
「『見事だ』って言われてもボクは福服さんの言われるままのことをしただけだよ。この手柄は福服さんのものだよ」
ボクは社長室の机に肩肘をついてそっけなく言う。
「いえこうして実践で何事も交渉されて実力をつけていけばよいのです」
その時ノックして秘書の安桃さんが顔を出す。
「若社長、丸笑金融の金暮サンタクという方がお見えです」
「丸笑金融?金暮サンタク?聞いたことないな。帰ってもらって下さい」
すると福服さんはそれを遮って、
「若社長、彼に会って下さい」
と言うではないか。
「一心スバルさんですね。金暮サンタクと申します。お見知りおきを」
金暮という男は音もなく社長室に入ってくる。上下グレイのスーツにグレイのネクタイ、メガネをかけて一見サラリーマン風ではあるがなにか危険な臭いをはらんでいる。
いつの間にかボクは丸笑金融の名刺を手にしていた。
「生憎お金を貴社から借りる予定はないのですが」
金暮は静かにボクの前に腰掛ける。
「もうこれ以上借りない方が賢明ですね」
「?」
男は静かに言う。
「私どもの会社は『ロイヤルエンジェルプロダクション』に10億円もの資金を融資しております。そのことを改めて認識いただけますようやってまいりました」
「じゅ・・・・10億・・・・・・」
ボクは言葉を失った。全くの初耳だった。
隣にいる福服さんを見ると、彼は静かにうなずいた。本当のことなのだ。
ふと一瞬昔に見た映画の光景が頭をよぎる。それは莫大な借金を借りた男が生きたまま臓器を切り刻まれて臓器売買で一つ一つ臓器を無くしていくというB級ホラーであった。
「そんなことはしませんよ」
(う・・・この男・・・ボクの心が読めるのか・・・)
金暮は、ボクの緊張している顔から心理を読み取ったのだ。金暮という男は取り立てのプロなのだ。
「借金を返す人を傷つけたりするのは犯罪ですからね。そんな馬鹿な真似はしません。わたしはあなたを励ましに来ただけです。ハッハッハッ」
(ううっ・・・丸笑金融という名前なのに目が笑っていない・・・・)
ふと邪な考えが頭をよぎる。
(自己破産したらどうかな・・・いや待てよ。遺産相続放棄したら逃れることができると聞いたことがあるな)
その心理を見透かすかのように金暮は釘をさす。
「前の社長あなたのお父様は‘男‘でしたよ。どんな困難に遭遇しても逃げようとしませんでしたよ」
(父は借金返済から逃げずに立ち向かって命を落としたのか・・・・・)
金暮は立ち上がる。
「福服社長、これからも長いお付き合いになりますが宜しくお願いします。
それから本当の社長一心スバルさん。
あなたも先代の息子でしたら。ドンとやってみることですな・・・・期待していますよ」
男は言うだけ言うと礼をして静かに部屋から出て行った。
残されたボクはしばし呆然とたたずむ。
ボクは恨めしげに福服を見上げる。
「福服さん!なんで借金のことを言わなかったんだよ~」
ボクの顔は半泣き状態である。
(このことを知っていたらこんな傾いた会社なんか継がなかったぞ)
「いずれ言うつもりでしたが言う前に彼が先に来ただけの事です」
と福服はケロリとしている。福服さんは続ける。
「今までもこのような危機は何度もありました。しかしわが社は何度もその危機を切り抜けてきました。心配には及びません」
(心配だよっ!)
聞けばこの前乗ったロールスロイスもボクを歓迎するためのレンタルだった。
(オイオイ借金しているのにそんなことで金を使ってくれるなよ~)
と悲しくなる。
この『ロイヤルエンジェルプロダクション』のビルも殆どの階を他の事務所に貸し出して会社自体は縮小しているのだった

なんでも父は社運を賭けた映画製作に乗り出したんだそうだ。スタッフの反対を押し切り半ば強引に莫大な費用をかけ現地南国ロケを敢行。
内容は、南海スペクタクル純愛ロマンスとかで南海の孤島で若い男と女が嵐の中純愛を貫くという内容なのだが、異常気象で本当の嵐がロケ現場を直撃。
セットが全て流されてしまう。おまけに謎の伝染病が島に蔓延して撮影スタッフ命からがら逃げ帰ってきたんだとか。
仕方なく近場の海で撮影。スタッフは必死で場面に映りこんでいる漁師、野次馬、アベック、柴犬などをCGで消す。それでまた巨費が消える。なんとか映画は完成するものの、主演男優の不倫スキャンダルが発覚。映画のイメージの純愛とかけ離れてしまい映画はお蔵入りになってしまったんだそうだ。かくて残ったのは莫大な借金の山。

「わたし福服の役割は若社長の仕事への意欲を最高の状態に保って仕事に全霊を傾ける環境を作り出すことなのです。会社の財政のことはお任せください。返済計画も立てております。しかし若社長あなたの活躍に社運が掛かっているというのも確かですので心づもりはしてください。借金も財産と思っていただけましたらよろしいです」
福服は、意欲の衰えてしまったボクを説得する。
福服はリモコンを取り出した。
(またリモコンか・・・・)
とボクはウンザリする。思えばボクのこれからの人生もこのリモコンによって操られていくのだろうか。

福服さんはリモコンのスイッチを入れる。すると壁にかけてある油絵の額がせり上がっていく。現れた壁は繰り抜かれて、中に黒光りする金庫が鎮座していた。
福服さんはダイヤルを回して金庫を開ける。中には札束がうず高く積まれてあった。
「この中に数千万円あります。活動資金です。若社長はなにか良い案があるようでしたら遠慮なくお使いくださって結構です」
福服さんは「これが金庫のダイヤルナンバーです」と数字の書いてある紙をボクに渡す。
不謹慎にもボクはこの金でどこか遠い南の国へ逃げることはできないものかと考えていた。
なんたってボクの父だって天国へ逃亡してしまったのだから。

アイドルのヒ・ミ・ツ 5

「形から入らなければなりません。若社長」
これが福服さんの弁だった。
若社長というのはもちろんボクのことだ。
福服さんに連れて行かれたのは紳士服屋であった。紳士服屋と言っても作り置きの紳士服を置いているのではない。そこで扱っているのは注文紳士服ってヤツだ。つまりボクだけの世界で一つだけの自前の背広を仕立てるってわけだ。テーラーがうやうやしくボクな体のサイズを隈なく測る。使うモノは輸入の極上の高級布地。福服さんは金色のクレジットカードを出して支払いを済ませる。しかし注文紳士服ってヤツは来店したその日に持ち帰れないのが難点だな

帰りのベンツの後部座席で福服さんは黒光りする漆塗りの携帯電話を取り出す。
「若社長、これがあなたの携帯電話です。これで社員たちと連絡を取って下さい」
「そ、そうか・・・・」
平静を装って受け取る。そこにはめ込まれている『ロイヤルエンジェルプロダクション』のマークは本物の金の板。思ったよりもズッシリと重い。自ずと手が緊張で震える。
(ボクはこれを持つのに相応しい人間なんだ)
と自分に言い聞かせる。

その夜、ボクはレンタルのイブニングを着てパーティーに出掛ける。芸能界はやれ何周年だの、賞を取った祝いだの、生前葬だのとパーティーが多いみたいである。今日のパーティーでボクが会社を引き継いだことをお披露目すると言う。
パーティー会場はすでに着飾った人々で溢れていた。内輪のパーティーと聞いてはいたがなかなか盛大である。
ボクは舞台の上に立ち、福服さんに紹介される。
「今は亡き前社長の忘れ形見。一心スバル様です。これからのわが社を栄光へと導いてくださるでしょう。皆様の力添えお願いいたします」
一斉に拍手が巻き起こる。
皆がそれぞれが席から立ち上がり各々談笑に耽る。なんとなく立っているとどこそこの会長や社長がボクのもとへやってくる。みんな見るからにボクより遥かに年上だ。
「君のお父さんは人格者だったよ」
「いや~君の父上はやり手だったねぇ」
「あんな人物は二度とは出まい」
来る人来る人がボクの父を誉めそやす。『ボクを誉めてくれ』と言いたくともボクにはなんの実績もない。ボクはすっかりくさってしまった。
ウェイターがせわしなく料理や酒を運んでいる。ヤケになってボクは未成年なのだがウェイターの盆からシャンパンを失敬して一気に煽った。初めて飲んだシャンパンはボクを幸せな気分にいざなった。つい次のシャンパンにも手が伸びる。

「あら、どこかでお会いしませんでした?」
「え?」
シャンパンの魔力に取り込まれてしまいほろ酔い気分の中眼前に現れたのはうら若き綺麗な女性であった。
「レナです」
「え・・・ええと・・・よろしく」
ボクはレナという女性と楽しい会話を楽しむことになる。

パ-ティーには売れない女優の卵やアイドル志望の乙女がなんとか自分を売り込もうと潜り込んでいる。そんな女性が若社長のボクに取り入ろうと近寄ってきたのだ。しかしその時ボクはアルコールのせいでそこまで考えが及ばなかった。

「まあっ!一心さんって面白いお方」
いつの間にかもう片方にも美女がボクに熱い視線を注いでいる。
「ミコです」
(ボクってひょっとしてモテ男?)
「スバルさんってハンサムなのね」
ボクは手櫛で髪をすいて慣れないポーズを決める。顔を凛々しく引き締めようとするがニヤけてしまうのとシャンパン酔いでどうにも締まらない。
「会社のトップともなるとお忙しいでしょう?」
「まあね、先週は英国で演劇鑑賞、次は仏国へ飛んで美術館で絵画鑑賞。人生日々勉強だな」
「まあ!素敵」
嘘がポンポン出てきた。
いつの間にかボクは周りを美女たちに取り囲まれていた。両手に花どころか両手いっぱいに花束である。
本来なら福服さんがガードするはずなのであったが、表向きは福服さんが社長なのでその挨拶に追われボクに害虫がつかないよう監視することがお留守になってしまったのであった。

(合コンでこんなにもてたことはなかった。彼女たちは見る目がない。所詮庶民の女だったのだ。さすが上流社会の女は違う。ボクからにじみ出てくる教養や品格を見抜いて親交を持とうとする。ボクは生まれながらに上流社会に相応しい男だったのだ)
そのときボクは大いなる勘違いをしていた。

女性たちはこれ見よがしに胸の谷間を見せてくる。ボクはシャンペンを飲むふりをしながらグラスごしに愛でる。
パーティー会場の所々には客を楽しませるためにパフォーマー達が配置されている。或る者は沢山の玉を空中で操り、或る者は目隠しをして切れ味の鋭いナイフを空中に投げては受け止めている。玉乗りをしている者もいる。
ボクのそばにいるパフォーマーは突然口から火を噴いた。
「キャッ怖いっ!」
歌手志望のレナはボクに抱きついてきて。胸の膨らみをグイグイと押し付けてきた。
隣の女優の卵ミコも負けじと自らウェイターにぶつかって、
「あっ!胸にワインこぼしちゃった。あ~ん、困っちゃうぅ。スバルさん、拭いて下さらない」
ボクは「はいはい」とハンカチを出しイブニングドレスの胸元を嬉々として拭く。プヨプヨした弾力の手触りをしばし楽しむ。
(おお・・・これがこれが酒池肉林というものか)
ボクはその夜パラダイスというものを知った。

翌朝ボクは元気に目覚めた。昨日のシャンペンが残ってはいたが若さがそれを吹っ飛ばした。
ボクはまだ住む場所を定めていなかった。父の住んでいたマンションを勧められたが父の轍を踏む生き方をしたくなかったので、我がままを言って会社の近くのホテルで寝泊まりすることにしてそこから会社に通っていた。
残念ながら昨日はお持ち帰りできなかった。もしたくさんの女性たちから一人だけ選んじゃうとあとに残った女性たちが可哀そうだからね。あとでじっくり一人ひとり堪能するつもりさ。
さて今夜は昨日のパーティーと出合ったどの女性とランデブーしようかな。
レナちゃんがいいかな。ミコちゃんがいいかな。よりどりみどりだ。ちゃんと携帯電話の番号も交換したからね。
ボクの今夜の夢は広がる。

ボクは肩で風を切って歩く。
「あ。若社長。おはようございます」
入り口の受付嬢が立って挨拶をしてくる。
ボクより年上の社員が
「若社長、あるアイデアがあるのですがお時間を取っていただけませんでしょうか?」
と寄ってくる。
社員みんながボクのことを親しみを込めて若社長と呼ぶ。

社長室に入るとすでに福服さんが待機して直膣不動で待っていた。
「やあ、お早う。爽やかな朝だね!福服さん」
「お早うございます。実はお話があるのですが」
挨拶そこそこに福服さんは苦言を呈し始めた。
「若社長、昨日のパーティーのようなお戯れは困ります」
ボクは即座に応酬する。
「福服さん。若社長のボクを見くびっちゃあ困るな」
「と申しますと?」
「ボクは女性たちと遊んでいると見せかけて。実はあのパーティーの席で未来のアイドルとなる女性のオーディションしていたのさ!」
「えらくニヤけながらのオーディションでしたね」
本当のことを言われボクはムッとする。
「聞き捨てならないな!ボクは純粋な気持ちで彼女たちと接していたんだ!嘘を言っていない証拠にボクのこの澄んだ目を見てくれ!」
福服が若社長の目を見ると、その目は二日酔いでドンヨリ濁って目ヤニが付いていた。
福服さんは頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。てっきりわたしは若社長がガールハントしているものとばかり思っておりました」
「はっはっはっ。わかってくれたらいいよ。誰にでも思い違いはあるものさ。許す。許す」
「で・・・・未来のアイドルは見つかりましたでしょうか?」
「ダメだね。話にならない」
「するとあのパーティーの女性たちとはもう今後関係を持つ必要はないということですね」
「う・・・うん・・・まあそういうことかな・・・」
ボクはしどろもどろになる。
「昨夜若社長にお渡しした携帯電話には特殊機能が付いておりまして・・・・」
「?」
「あなたの携帯電話をこちらから操作することができます」
福服はポケットからリモコンを取り出すとスイッチを入れた
「これで若社長の携帯から昨日のパーティーの女性たちの電話番号を全て消去しました。むこうから若社長に昨日の女性が電話してきたとしても全て拒否するようにセットしました」
「そんな~あんまりだぁ!!!!ひどいよ~福服さん!」
嘆きのあまりボクは社長の机に突っ伏した。
福服さんは静かに言う。
「わたしには若社長を成人までに一人前にする義務があります。ご理解願います」
福服という男は極悪非道な男であった。

アイドルのヒ・ミ・ツ 4

ボクを乗せたロールスロイスはビルの前に横付けされる。降りてボクはビルを見上げる。陽の光がビルを覆うガラスに反射して眩しいので思わず手をかざす。切りそろえられた低い植木の中にある黒光りする花崗岩のプレートが据えられてある。そこには『ロイヤルエンジェルプロダクション』と彫られた文字が金色に輝いている。父が一代で作った芸能プロダクションだ。
生前父は「見学に来ないか」と誘っていたがボクは頑なに拒んでいた。
(来るつもりなんてなかったのになぜ来てしまったのだろう・・・)
ボクに後悔にも似た気持ちが沸き起こる。
ビルの下の方はタレント養成所になっているそうだ。ボクは福服に導かれるままにエレベーターに乗り最上階へ。予め福服が連絡していたのでエレベーターの扉が開くと一人の女性がボクを出迎えてくれた。事務的な紺色のスーツを着たどこか上品な香りのする女性だ。胸には金色の『ロイヤルエンジェルプロダクション』の紋章のような布のマークが縫い付けられてある。
福服は紹介する。
「あなたの父上の秘書をしていた安桃レルです。引き続きスバル様の秘書をしてもらおうと思っております」
明らかに彼女はボクより年上なのだが丁寧に
「よろしくお願いします」
と礼をする。ボクもコメツキムシみたいの反射的に礼を返してしまった。
エレベーターを下りるとそこはすぐ受付になっている。応接室も兼ねており細長い応接机を挟んで革張りの白い大きなソファが向かい合って置いてある。客が気持ち良く話しができるよう邪魔にならない程度の音量でクラッシック音楽が流れていた。
「こちらへ」
と福服は奥へと進み突き当りの重いドアを開けた。
「わあぁ」
思わずボクは声を漏らしてしまう。そこは社長室であった。重厚な赤い絨毯が敷き詰められて中央に如何にも重そうなマホガニーの机が据えられている。なによりも圧倒されたのは正面がガラス張りでそこからこの町が見渡せたのだ。僕は特注の革張りの回転椅子に腰かける。なにもしていないのに天下を取った気分になる。壁には値段の高そうな油絵が掛かっている。隅の方にグランドピアノが見える。父はピアノを弾くことができた。時々父自らピアノを弾いて自社のタレントに歌の指導をしていたのだ。残念ながらボクにピアノを弾く才能はない。暫く椅子を揺らして回転させてじゃれる。
ボクはいきなり思い出す。
「あっ、福服さん。携帯電話を下宿に忘れてきてしまったんだけど返してもらえないかな?」
「あなたの下宿のものは今全て処分しました」
先ほど車の中で福服が『処分するように』と言っていたのはこのことだったのだ。
「そんな・・・あんまりだ・・・ひどいよ!なんの権限でそんなことをするんだ!」
ボクは半分泣きそうになりながら訴える。
「昔の生活を忘れて今の仕事に打ち込んでもらわないと困ります。あなたが『このビルに来た時点で社長の椅子を引き継ぐと見なし過去のものを処分するように』というのがあなたのお父様の遺言です」
有無を言わせぬやりかたにいささか反感を覚える。
福服はリモコンを取り出すとスイッチを入れる。すると自動カーテンが社長室を暗闇に覆い尽くす。そして目の前の壁に白い大きなスクリーンが沿って下りてくる。天井に四角い穴が開くとそこから小型映写機が音もなく下りてくる。そこから出た光の筋がスクリーンに映像を映し出した。
そこに映しだされたのは死んだばかりの父の姿であった。映像の背広姿の父は正面にいるボクを見つめる。
「やあ、スバル元気にしているかい。この映像を見ているとき私はすでにこの世にはいないだろう。この世を去る前におまえに是非言っておきたいことがある」
思いがけない再会であった 思わず腰を浮かす。
父はまるで生きているようにボクに語りかける
「いや・・・これはお願いと言った方が良いかもしれない。おまえにわたしの跡を継いでほしいんだ。家庭を顧みなかったわたしがおまえにこんな願い事をする義理はないかもしれない。しかしわたしは信念と誇りを持ってこの仕事をやってきたつもりだ。これは夢を売る仕事だ。夢を人々に与えるということは素晴らしいことだぞ。人々に元気を与え、人々は明日生きる力を湧きおこす。人々が感動して泣いたり笑ったりする顔を見る至福の時をおまえにも味わってほしい。おまえは私の子だ。親馬鹿と言われるかもしれないがわたしの目に狂いはない。おまえにはその素質がある。生きているときもっとおまえと話がしたかった。だけどおまえはなにかとわたしを避けていたからね。わたしは大学へ行きたいというおまえのわがままを聞いてきた。今度はわたしの最期のわがままを聞いてくれてもいいんじゃないかな?あまりに喋りすぎるとまたおまえに嫌われてしまうかな。そろそろ終わりにしようか。じゃ健康に気を付けて。おまえの嫁さんや孫を見られなかったことが心残りだ。しかしもし天国と言うものが本当にあるんだったらおまえのことを見守っているからね。じゃあな」
父は照れ臭いのかおどけるように敬礼のポーズを取った。
父の最期のメッセージが終わると部屋は真っ暗になる。沈黙の中ボクは福服さんにお願いをする。
「カーテンはまだ開けないでくれないかな」
ボクは暗闇の中で通夜葬式では出なかった涙を流していた。

アイドルのヒ・ミ・ツ  3


火葬場で父のお骨を拾う。一人の人間がこんなちっちゃな白い塊になってしまうのを目の当たりにすると人生なんてはかないものだなと他人事みたいに思ってしまう。
一通り自分がしなければならないことを無事終えることができ安堵の溜息を漏らす。
とはいえ全ての事は福服がやってくれたのでボク自身はベルトコンベヤーにただ乗っかっていたという感じで葬儀を終えてなんの達成感も感慨もなかった。

ボクは福服さんの用意した喪服を脱ぎ普段着に着替える帰り支度を始めた。すると福服さんがとんでくる。
「スバル様どこへ行かれるのです?」
「『どこって?』言われても・・・葬儀も終わったことだし今から大学へ帰ろうかなと・・・・宿題のレポート書かなきゃいけないし・・・・」
「それはなりません」
「!?」
「お父上の遺言によりあなたは社長の椅子を引き継いでいただかなければならないのです。もうすでにスバル様の休学届は出してあります」
「なんだって!」
そういえば初めて福服さんたちに会ったとき車に乗ったのは四人のうち三人で一人が乗らずに車を見送っていた。おそらく彼がボクの休学の手続きを取っていたのであろう。ここで格好良くボクの大学学業専念を宣言したいところであるが、情けないことに今の私立大学の授業料は父に援助されて成り立っているものであった。父の反対を押し切って大学進学したとはいっても金銭援助を打ち切られれば成り立たなくなるという脆弱なものであった。バイトをして学業を続けると言ったとしても何分田舎であるのでそんなに都合よく授業料と生活費を稼ぎだせるかと言って自信はなかった。ボクの運命は相手に握られているといっても過言ではなかった。
ボクは引かれた運命のレールに乗っかって行くよりほか道はないようであった。
反面父の仕事を覗いてみたいという欲求が芽生えてきたことも確かであった。通夜葬式で父の部下たちが見せた涙の正体をこの目で確かめてみたくなったのである。

ボクは、かつて父が乗っていたロールスロイスの後部座席に座る。もちろん専属の運転手付きだ。福服さんと父のタレント養成所兼芸能プロダクションへと向かった。隣の福服さんが説明する。
名目上は福服さんが社長に就任することとなっている。そしてボクは社長見習いなのである。しかしこれは株主を納得させるための表向きの工作である。実際裏では父の遺言通りボクが会社の若社長として社の実権を握って自由に采配を振ってもよいということだそうだ。
「福服さん、ボクを社長にすると言っているけれどさ。ボクはこの仕事に関してはなんの経験も知識も持ち合わせて素人ですよ。それでもいいのですか?」
「ご安心ください。わたくし福服が及ばずながらお力添えを致します。ご心配なさらぬよう」
(父の遺言とはいえこんなはなたれ小僧のボクを社長に据えるとはいい度胸だな。ようし!ボクも男だ。やってやろうじゃないか!)
ボクは闘志をみなぎらせたのだった。

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